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『稲羽の素菟』(11) 鷺大明神の謎 ② 稲背脛命

■鵜鷺(うさぎ)の地

黄泉の穴の伝承地として有名な「猪目洞窟」をさらに西に行くと、鵜峠(うど)という地域に入ります。

鵜峠をさらに西に行くと、鷺浦(さぎうら)という地域に到達します。

鵜峠(うど)浦

『出雲国風土記』(733年)には宇太保浜(うたほはま)と記されています。中世に宇道、宇峠とも呼ばれ、江戸時代に鵜峠になったという。


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鵜峠+鷺浦で明治22年、「鵜鷺村(うさぎむら)」が誕生し、昭和26年(1951年)に大社町と合併するまで存在しました。

鷺浦については、奈良時代より「鷺浜」なる地名があり、起源の古い地名であると思います。


鷺浦港  向こうに柏島が見える。『出雲国風土記』(733年)には、すでに鷺浜(さぎはま)と記されている。


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■伊奈西波岐神社

ここの鷺浦港に面したお宮が、出雲大社摂社「伊奈西波岐神社」です。式内社「大穴持伊那西波伎神社」に比定されている神社です。

鷺社とも呼ばれています。

祭神は、社名の通り、稲背脛命(いなせはぎのみこと)です。

この神ですが、日本書紀の「国譲り神話」の所で出てまいります。

"このときその子の事代ことしろ主神ぬしのかみは、出雲の美保(みほ)の崎にいって、釣りをたのしんでおられた。

あるいは鳥を射ちに行っていたともいう。そこで、熊野の諸手船(もろたふね)(多くの手で漕ぐ早船か)に、稲背脛(いなせはぎ)(諾否いなせを問う足)をのせてやった。そして高皇産霊尊の仰せを事代主神に伝え、その返事を尋ねた。"( 『日本書紀(上)』全現代語訳 宇治谷 猛 講談社学術文庫 )

『古事記』では稲背脛命ではなく「アメノトリフネ」が登場します。

稲背脛命は、天穂日命の御子「天夷鳥命(あめのひなとりのみこと)」と、同神とされていますが、『日本書紀』では、同段に、大背飯熊之大人(おおそびのみくまのうし)、またの名は武三熊之大人(たけみくまのうし)と書かれております。

ここがそのように書いてないところを見ると大背飯熊之大人=稲背脛命とは読み取れないように思えるのです。

ともかく国譲りを承諾するかどうかを問う使者という役割を与えられた神には間違いがありません。

ここの大穴持伊那西波伎神社が、鷺社に呼ばれるにいたった背景がなんだったのでしょう。

鷺浦に鎮座しているというこことなのでしょうが、天日名鳥⇒鷺ということからも、きているんでしょうか?

『古事記』では、鷺(さぎ)は天若日子の葬儀のときの、箒持ちの役割を担います。この箒は、「伯耆国」の由来とも云われ、(伯耆国風土記逸文では、「母来」となっています。)

伯耆国造は、天穂日命の系統ということになっているので、そういうことが関係しているのかしら。

昭和41年御由緒調査書によれば、

「往古佐木といへる社号は延喜式神名帳に伊奈西波伎神社とあるを以って神号を蒙り波伎と言ふべきを「は」と「さ」を通音を以て佐木と万葉書に記し来り一浦の名も此社号より佐木浦といへり神号を象り(かたどり)社号とする例多し…中略…防州岩国の住人某奇想に出雲国佐木大明神と称し玉ひて疱瘡安全を守護し給ふとの託宣有て夢覚ぬ翌朝家内へ白鷺一羽翔入りて暫時有て飛去方を見れば出雲国の空に当れり誠に奇異の思いをなして速かに大社へ詣り来り件の瑞夢を語りしより鷺の文字に改め書すと。」

ここに書かれているのは、「伊奈西波伎社」⇒「波伎社」⇒「佐木社」⇒「鷺社」という転訛のようです。

伊奈西波岐神社 
祭神稲背脛命   所在地 出雲市大社町鷺浦102  


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ところが、江戸時代の地誌、黒沢石斎著『懐橘談』(前編1653,後編1661)の「鷺の宮」の段では、鷺社の祭神が、「素戔嗚命の妾」となっています。国譲りの段の登場する神とは、まったく縁の無いものなっています。

"出雲国鷺宮は何れの神を祀り侍るやと牧童に尋ね侍れば是れは素盞鳴命の妾にてましましけるが天成の霊質にて御契浅からざりしが後に天瘡を患ひ給ひ花の顔、

忽に変じて悪女とならせ給ひ素戔嗚命と御中もはやかれかれにならせ給ふ

かくて妾女我身の色衰へたる事を悲み、天神地祇に深く誓ひ給ひて末世の人民我に祈る事あらば疱瘡の患を免れしめんと誓約し給ひし

故に今に至る迄此の宮の石を取りて子児の守り袋に入れてかけぬれば痘疹の病を脱ぐといひ伝へたりとぞ

年老ひたる社司の語りしは是は瓊瓊杵尊なり伝記にいふ所は昔神託童而祈我者免痘瘡之患爾来為痘瘡守護神云々殊勝にぞ覚へ侍る」と"

「素戔嗚命の妾」とはいったいだれなのか?

弥生時代は対偶婚であって、そもそも「妾」なる概念そのものが無いはずですが、ともかく、疱瘡を患って素戔嗚命と不仲になってしまいます。

そこから、稲背脛命=疱瘡に罹った「素戔嗚命の妾」、あるいは瓊瓊杵尊、というように別の伝承が組み合わさったような感じがします。

伯耆・南部町の鷺神社が、祭神 稲背脛命 磐長姫命としているところを見ると、瓊瓊杵尊と磐長姫命が関係しているのかと思いましたが、そこは、元々別の神社の祭神で合祀されたもののようで違うようです。

ここの伊奈西波岐神社は、江戸時代、鷺大明神として全国的に有名だったようで、日向佐土原の修験野田泉光院の『日本九峰修行日記』に"これ疱瘡の守護神日本第一也と云ふ"と書かれています。

ここの神社の石が「ご利益」があったということなのですが、宗教上の理由以外にも何か理由があるのではと、ここの石の意味を考えてみました。

鷺浦には昭和10年代初頭に閉山するまで銅山があったようです。

銅は殺菌作用のある鉱物らしい。⇒ 一般社団法人 日本銅センター

それが関係したかどうかわかりません。

伊奈西波岐神社の灯籠の波乗り兎
鵜峠の大宮神社本殿にも波乗り兎の彫刻が施されています。


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■「素戔嗚命の妾」は、だれか?

伊奈西波岐神社から出雲大社までの山道を車で運転していると、突然道路下に大社造の神社が現れてびっくりします。

大穴持御子神社、通称三歳社(みとせのやしろ)です。

富家伝承本によると、大和の葛城御歳神社が出雲に里帰りしたものという。⇒ ウィキぺディア 葛木御歳神社

高比売神(高照姫命)、事代主命の兄妹は、出雲の神であると同時に、大和(葛城)の神でもあります。

大穴持御子神社( 三歳神社 )   島根県出雲市大社町杵築東 
祭神 事代主神 高比売神 御年神


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長野県諏訪市大和に先宮神社(さきのみやじんじゃ)というこの高照姫命(高光姫命)を祀った神社があります。

古くは「鷺宮」(さぎのみや)、「鵲宮」(さきのみや)と呼ばれたようです。

そこの祭神「高光姫命」は、またの名を「稲背脛命」とされているとのことです。

社伝の一説によれば、高光姫命を首領に頂く大和の原住民は、建御名方神が諏訪に攻め入った時、抵抗したがついには服従して、現在の社地から出ることを許されず、現在も境内前の小川に橋を架けられていないそうです。

しかし、富家伝承によれば、高照姫命は、建御名方神のおばとなっています。

それはともかく、素戔嗚命は、富家伝承本によると彦火明命(=饒速日命)と同神であり、高光姫命と結婚して丹波の海部王朝をつくり、その後、市杵島姫命と婚姻して、筑紫王朝をつくるということになっています。

海部氏勘注系図、先代旧事本紀でも、下記の系図となっております。

稲背脛命=素戔嗚命妾説ですが、高照姫命離縁説の伝承が背景にあるのかななどと思ったりもします。

鳶大明神の本源地は、出雲の伊奈西波岐神社であると思いますが、白兎神と習合するにいたったことは、その名の「さぎ」にあるのかもしれませんし、「皮が剥げる」といった疱瘡と素兎との共通項からなったのかもしれません。

ただ、太古からそうだったとは、自分には思えないのです。

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参考文献   

  • 杉谷 正吉著『伊奈西波岐神社(鷺大明神)疱瘡守護神由来記』大社史話会発行『大社の史話第23号』)
  • 石破 洋著『イナバノシロウサギ総合研究』(牧野出版)
  • 宇佐 公康著『宇佐家伝承 古伝が語る古代史』(木耳社)
  • 斎木 雲州著『お伽話とモデル―変貌する史話』 (おおもと新書)
  • 勝 友彦著『山陰の名所旧跡―地元伝承をたずねて』(大元出版)



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出雲国風土記の世界の研究にこの一冊を。


Commented by のどぐろ at 2019-11-11 11:00
「妾」では無く、『許嫁(いいなずけ)』では無いでしょうか?

Twitterで許嫁と明言している説を見つけました。

「 天照大神
悪魔教崇拝者どもに人質としてとられた
これが天岩戸隠れ

それに激怒した素戔嗚尊が自分の子供たちを使役して悪魔教どもを根絶やしにしようとしてる

天照大神は素戔嗚尊の許嫁だった
兄弟 じゃない 」

https://twitter.com/LenaTatsumori/status/1190927649289302016


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by yuugurekaka | 2017-06-03 16:16 | 因幡の素兎 | Trackback | Comments(1)